【数秘術大全】 (アンダーウッド・ダッドリー著/森 夏樹訳/青土社刊/2010)
2010.10.3 レビュー
本著の作者は「数学者」であり、「数秘術師」では無い。本著そのものは『数秘術大全』という名の通り、古今の数秘術に関する様々な事例を取り上げているが、「数学者」である著者が「数秘術」を数学的・論理的に検証していくという構成となっており、「アンチ数秘術」本としての体を為している。
この事は次に書かれた著者の言葉にも良く現れている。 『数には力がある。しかし、数は出来事をコントロールしない。そして、偶然の一致は起こりうる。』(p13,14)
本著では数秘術に関する実に様々な事柄について取り上げている。 ピュタゴラスやピュタゴラス学派、ゲマトリア、獣の数字「666」、聖書の中の「7」、「創世記」の三角数、シェイクスピアの数、数のゲーム「リトモマキア」、L・ダウ・バリエット夫人、ピラミッド解釈学、エニアグラム、エリオットの波動論…等等。 古今の数秘術に関して、著者の視点から様々な「ツッコミ」を行っているのだ。
中でも著者の数秘術に対する姿勢がはっきりわかるのは、「小数の法則」と「概数の法則」では無かろうか。 例えば「小数の法則」は、小さな整数(1桁や2桁)はそれ自身余りにも数が少ない為、往々にして人々を惑わせる偶然の一致が発生する、という考えだ。 数居る数秘術師はその根拠を、通常では考えられない「数の一致」があった場合、「偶然の一致」では無く「数の神秘性」であると考える。しかし1桁や2桁といった数秘術で一般的に用いられる桁数であれば、意外と頻繁に偶然の一致が発生してしまう、という事実を如実に語っているのだ。
また「概数の法則」は、例え桁数の大きい(10桁等)数字の一致であったとしても、その数字自身に「除数(約数)」が多ければ、やはり偶然の一致は十分に有り得る、という考えである。
この二つの法則は、数秘術師が抱きがちである「数の神秘性」を木っ端微塵に粉砕してくれる事だろう。そしてもっと論理的に数秘術を考察するきっかけとなるに違いない。 現に私自身、本著を読んで論理的数秘術の構築を行う意志を更に強く持った程である。
とはいえ、数秘術の初心者には余りお勧め出来る本ではない。ある程度、数秘術に触れその魅力にどっぷりと嵌り始めている人に読んで貰えると、よりニュートラルに数秘術を捉え直す事が出来る事だろう。
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